こんにちは。看護師歴28年、 骨盤底筋トレーニング【YUI】の 北條裕紀恵です
体の底にある骨盤底筋は内臓を支えている筋肉です。
この骨盤底筋が弱くなると、膀胱や子宮、直腸などの臓器が膣めがけて落ちてきます。
このような、膣から膀胱などの臓器が落ちてきてしまう病気を骨盤臓器脱と言い女性特有の病気です。
女性の骨盤底筋が弱くなると起こる病気、それは骨盤臓器脱(子宮脱)
骨盤臓器脱の治療には、手術をせずに膣の中に器具を入れて臓器を支えてあげる方法と手術があります。
膣の中の器具を自分で管理するのは難しそうだし、手術にしようかなと考える人は多いかもしれません。
日本国内の骨盤臓器脱の手術は、専用の形に切ったメッシュ布を体の中に入れ落ちてくる臓器を支える手術が主流です。
骨盤臓器脱で手術をすると決めたけど気になるのが「手術って痛くない?」ではないでしょうか。
ザックリ言うと骨盤臓器脱のメッシュ布を使う手術の痛みのピークはおおよそ1週間ですが個人差があり1ヶ月くらい痛む方もいます。
今回は、骨盤臓器脱のメッシュ布を使う手術について
- どこが痛むのか
- どのくらい痛むのか
- 痛む時はどうするのか
を説明しみなさんの手術に対する不安が少しでも軽減できればと思います。
骨盤臓器脱手術のメッシュ布を使う手術
膣から子宮や膀胱、直腸が落ちてくる骨盤臓器脱という病気の手術は、体の中に専用のメッシュ布を入れて落ちてくる臓器を支えてあげるのが日本国内では行われています。
骨盤臓器脱手術でメッシュ布を使う手術には、TVM(Tension-free Vaginal Mesh)という手術と、LSC(Laparoscopic sacrocolpopexy))とロボットで行うRSCいう手術があります。
TVMという手術は膣からメッシュ布を入れ、LSCという手術は腹腔鏡でお腹からメッシュを入れるます。
この2つの手術についてもっと詳しく知りたい方はこちらをどうぞ
骨盤臓器脱 手術の種類と手術を決める時の5つのポイント
この2つの手術はお腹を大きく切りませんが、体を傷つけるためやはり痛みはあります。
その痛みを事前に知っておくことで不安は軽減できます。
ただ、痛みそのものの感じ方は個人によって違います。そのため、手術の痛みはこうだ!と断言することはできませんのでご了承ください。
NPO法人 日本緩和医療学会のがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)によると
国際疼痛学会は「痛み」を「実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験」と定義している。痛みは主観的な症状であり心理社会的、スピリチュアルな要素の修飾を受ける。
URL: https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2010/chapter02/02_01_01.php
と「痛み」について説明しています。
このことからも、痛みは受け止める個人によって違いがあることが分かります。
そのため、今回は、骨盤臓器脱のメッシュ布を使う手術の痛みが、みなんさの中でぼんやりとイメージができればいいかと思っています。
骨盤臓器脱手術のメッシュ布を使う手術の痛みについて
TVM(膣からメッシュ布を入れる)の手術後の痛み
TVMは、お腹を切らないで膣を切ってメッシュ布を入れるため痛みが少ないと考えられています。
しかし、体を傷つけているわけですから痛みが全く無いわけではありません。
そして、このTVMは膣からメッシュ布を体に入れて落ちている臓器を支えます。
メッシュ布を体の中に固定する時メッシュ布を体に縫い付けるわけではありません。
メッシュ布は体の中に埋め込み式で設置され、その埋め込んだ所に体専用の接着剤で固定されます。
そのメッシュ布の固定場所は、体の前と後ろ2ヶ所ずつの計4ヶ所となり、下の図の赤丸の場所にポチっと接着剤で固定されています。
痛みの部位
TVM手術を受けた患者さんは、手術後1日目は図で示した4ヶ所の傷の固定部分が一番痛いようです。
そしてお尻の2ヶ所の固定部分の傷は、座るとちょうど当たるため余計痛みが強くなるようです。
また、手術後1日目には、太ももの裏側にも筋肉痛のような痛みがある人がいます。
これは、手術中は台の上に乗り長時間同じ体勢をしているためだと考えられています。
痛みへの対応
円座というのは、中央に穴が開いているクッションでそこに座るとお尻の傷の所が当たらないので痛みが楽になります。
手術後は、必ず痛み止めの薬が処方されます。
ほとんどの人がその痛み止めの薬でコントロールできています。
痛みの期間
TVMの手術を受けた多くの方は、痛みのピークは手術後約1週間の人が多い傾向です。
そして、痛みは長くても1ヶ月~1ヶ月半くらいで大体の痛みがなくなる方が多いようです。
しかし稀に手術の後、痛みが継続する方がいます。
手術そのものの傷は大体2ヶ月~3ヶ月もあれば自然に治っていきます。
それなのに、手術の後半年以上その痛みが継続する場合は手術による痛みとは考えにくくなります。
その場合は、異物であるメッシュ布に反応しているのか、神経に関係するものなのかなかなか判断が難しいようです。
このような場合は、手術をした病院で痛みの原因は何か詳しく検査を行います。
そして、痛みの原因が手術と関係ないと医師が判断した場合は、痛み専門の病院で対応することもあります。
また、痛みの原因がメッシュ布だと疑われる場合は、メッシュ布その物を取り除く場合もあります。
LSC(腹腔鏡でお腹からメッシュ布を入れる)の手術後の痛み
LSCは、腹腔鏡という手術法でお腹にメッシュの布を入れていきます。
腹腔鏡は、お腹は切らずに何ヶ所かの小さい穴だけを作り、そこからお腹に手術の器具を差し込んで手術をします。
そのため、LSCの傷はお腹にできた小さな傷のためTVMのようにお尻が痛むことはありません。
痛みの部位
一番痛むのは、お腹の何ヶ所かの小さな傷が痛みます。
また、お腹のなので腸が動き出すと少し痛みが強くなる場合もあります。
しかし、LSCにはTVMのようなお尻の傷がないので、椅子に座ったり便座に座ったりするのは楽になります。
痛みへの対応
LSCの場合も、痛み止めの薬で対応します。ほとんどの方が痛み止めでコントロールできている印象です。
LSCではないですが、私は子宮筋腫で腹腔鏡の手術を受けたことがあります。
その時の痛みは、痛み止めの薬で十分にコントロールできました。
そして、体を動かす時に傷が突っ張るようなお腹の痛みは1ヶ月くらい続きました。
そして、LSCもメッシュ布を体の中に入れていますので、TVM同様に体がメッシュ布の異物に反応して、手術の傷が治っても痛みが続いてしまう場合があります。
この場合もTVM同様に、痛みの原因を調べたり、痛み専門の病院で対応したりし、メッシュが原因と疑われる場合はメッシュを取り除きます。
骨盤臓器脱手術 TVM(膣からメッシュを入れる)手術後の痛みの調査
この痛みの調査は、2014年の第27回 日本老年泌尿器科学会で私が調査し発表したものです。
どうして調査をしたのかというと、TVMで使うメッシュ布の大きさが従来の布の大きさより小さくなりました。
そうすると、メッシュ布の小さい方が痛みが少ないのではないかという考えが出てきたのです。
しかし、痛みは主観的なものですしメッシュ布が大きかろうと小さかろうと切られれば痛いだろうと私は考え調査をしました。
TVMの手術後の痛みの調査
調査対象が74人と非常に少ないので参考程度にしてください。
演題:「当科における、経膣メッシュ手術(TVM)および尿失禁防止術の術後疼痛に関する検討」
- 調査期間:2013年5月~12月
- 調査人数:74名(大メッシュ布23名、小メッシュ布34名、尿失禁防止術TVT14名)
結果は、大きいメッシュ布も小さいメッシュ布も痛みに変化はありませんでした。
そして、全体的な手術後の痛みのピークは4日間でした。
痛みが明らかに軽減されるのは6日目からで、痛み止め薬の使用頻度も6日目から明らかに少なくなっていました。
- 調査結果
- 痛みのピーク:術後4日目
- 痛みが弱くなる時期:術後6日目
- 痛みがおおよそ無くなる時期:長くて術後30日
- 痛みが強い部位:メッシュ布を固定しているお尻の傷2か所と太ももの裏面を痛がる人が多い傾向
まとめ
いかがでしたでしょうか。
骨盤臓器脱のメッシュ布を使った手術の痛みについてちょっとイメージできましたか?
痛み表にまとめると以下になります。
手術の種類 | 一番痛む場所 | 痛みのピーク | 痛みの半減期 | おおよその痛みが減退 | 痛みへの対応 |
TVM | お尻の傷、太ももの裏 | 4日 | 6日 | 1ヶ月~1ヶ月半 | 円座、薬 |
LSC | お腹の傷、腸が動く時お腹の中 | 1週間 | 調査無し | 私の腹腔鏡下手術の経験から1ヶ月~1ヶ月半 | 薬 |
痛みの感じ方には個人差がありますので、あくまでも参考程度にしてください。
そして、手術について分からないことは躊躇せずに医師に質問をしましょう。
手術前に不安を取り除くことは手術への大切な準備となります。